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はじめに
西安へ行けなくなってから随分と時が経つ。最近、西安料理までが夢に出てくるようになった。これは、西安へ行けないストレスからくるものだろう。北京ダック、蟹味噌小籠包、瓢箪鶏といった好物ばかりが登場。 その影響であろうか、食欲旺盛で体重が増えた。医者からは減量を言われているだけに、困ったことだ。 |
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…2021年7月の西安…
待遇改善を計画
西安では、労働賃金の上昇が続いている。昨年あたりから、新入社員の待遇が同業他社と比較して少し見劣りするようになった。待遇改善が必要だが、本社が送金額を増やしてくれるはずはなく、自力でなんとかするしかない。
経費削減ではお馴染みの交際費と交通費、それに行事費を加えて検討を始める。交際費では日本取引先へのお中元と秋の西安来客接待を中止、交通費では本社出張をキャンセル、行事費では採用内定者懇談会の中止を決めた。コロナ感染の効果で苦労なく削減できた。
待遇改善には給料手当や賞与などの支給額増額と養老年金や住宅基金の積立金増額があるが、今年は支給額だけだ。給与改訂は毎年8月に実施、7月中には昇給内容を決めておかなければならない。
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無数の牙が
待遇改善を決めたが、今期の利益確保は大丈夫かと無数の牙が私を襲ってくる。厳しい年だけに、一時でも気を抜くと地獄をみることになるだろ。顔には、苦渋に満ちた皺が増えていくばかりだ。
上半期は予想外の超過勤務時間増加により損益が悪化、下半期には大口支出が控えているだけに危険がいっぱいだ。悪魔と取引しても損失金だけは出したくない。
年寄りの皺は人生の勲章と言う人もいるが、苦渋の皺はそんな美しいものにはならないだろう。
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…8月の西安…
新入社員にひと言
8月23日から新入社員研修が始まる。私の時代は、「一度しか言わない。」、「一を聞いて十を知れ。」、「見て覚えろ、仕事は盗むもの。」、「返事はハイしかない。」などと言われながら指導を受けた。 時代は、社員は褒めて使えと言われるようになり、研修も手取り足取りに変わった。しかし、社会人の成長は、自分で考えて努力していくところにあると思う。そうであれば、世話をやき過ぎる教育は間違っているのでなかろうか。
新入社員が出社してきた。多くの応募者の中から選んだだけに期待は大きい。行儀が良く、理解度が高くて覚えも早い、規則やルールが守れて周囲の人と上手く付き合っていける。そんな人材に育ってくれることを願っている。
新入社員に一言だけ言いたい、「優しく指導するが、失望だけはさせないでくれ。」
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新入社員に質問
毎年、新入社員に同じ質問をしてきた。「日本の親が自分の子供に一つだけ望むとしたら、それはどんなことでしょう?」 彼らにとっては自分と自分の家族の幸せが第一で、お金持ちになる、成功した人や出世した人になるなどの答えが出てくる。「日本の親の100人中99人までが、人に迷惑をかけない人間にだけは育って欲しいと答えるでしょう。」そう話すと大変な驚き様だ。
続けて迷惑について話す。人を傷つけたり騙したりすることは勿論のこと、ゴミのポイ捨てや人込みで大声を出すといったことも迷惑に含まれます。そう話すと、彼らの頭の中はパニック状態。全く違う世界に飛び込んでしまったと思う。
中国の若者は経済的豊かさを求める気持ちが強く、日本の若者は程々の幸せが掴めれば充分で、それよりは苦労したくないという気持ちが強いと聞く。では、我社にとっては、どちらの若者を採用するのが相応しいのか。
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…9月の西安…
秋期募集は
秋の募集を始める前に、これまでの面接試験を振り返ってみた。面接の際に、「日本はどんな国ですか?」と質問してきた。多くの答えは、経済が豊かで先進技術が発達した国、清潔で綺麗な国、アニメーションが発達した国などで、日本の人気は高い。
次の質問は、「日本は地下資源が乏しい国ですが、どのようにして経済が豊かになったと思われますか?」この質問に対しての答えは少ない。日本は地下資源も豊かな国と思っている。彼らは、経済が豊かな日本で稼ぐことを夢見ている。
最後に,「日本は好きですか?」と質問する。当然受験者は「好きです。」と答えるが、私は「大好き」という答えを求める。3年間の本社研修中には幾度もホームシックという病に襲われる。「好き」だけでは、この試練を乗り越えられないからだ。
今年応募してくる学生について調査してみた。すると、コロナ感染で海外へは行きたくない、民間企業への就職は倒産の危険がある、国内に留まって役所に就職するのが一番、そのためには大学院へ進学しなければ。このような考え方が殆どで、大学卒の就職希望者が減っている。
学生たちの日本へ行きたいという気持ちに支えられてやってきた募集活動も、日本人気が無くなれば、いくら頑張っても成果は期待できない。秋の募集を中止した。
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帰国休暇の中止
本社へ転属している社員の一番の楽しみは年一回の帰国休暇だ。だが、昨年はコロナ禍で中止、今年は10月に予定しているが、果たして帰国できるだろうか。
今年4月に本社研修を終えた社員2名を西安へ帰任させたが、会社も本人も大変だった。成田空港まで移動して2泊、その間にPCR検査を受けて陰性証明書を取得、帰国してから1ヶ月間の隔離があった。
現在の西安の状況は、8月に入ってから感染拡大が始まった。昨年1月の都市封鎖直前の様子に似てきたと聞く。人と車が表通りから消え、主要な場所には公安局と衛生局の担当者が立ち、住民に徹底したPCR検査が実施されている。
その他に、西安市は9月15日から全国運動会(日本の国体)を、中央政府は来年2月に冬季オリンピックを予定している。その為、コロナ感染対策が一層強化された。この状況では帰国は無理、本人たちへ帰国休暇の中止を伝えた。慰めになればと言葉を探すが、見つけることができなかった。
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…10月の西安…
西安の経済
6,7年前になるが、西安でレンタサイクル事業を始める企業が同時期に数社現れた。歩道上の自転車数が増え、やがて溢れるようになり、ついには山積み状態で放置されて自転車公害とまで言われた。儲かると思うと我先に投資を始めて、儲からなくなると我先に撤退していく。これが西安流のようだ。
中国の投資家は、一斉に同じ方向へ動く習性がある。政府までも、今は株式投資が儲かりますよ、次は不動産投資ですよ、これからは美術骨董品ですといった誘導を、それとなくやっているように思える。
現在の全国的な経済状況は、恒大不動産問題が示すようにマンション建設が減り、売れ残り物件が増えて価格が下落を始めた。これまで不動産開発が経済成長を牽引してきたが、今はその力も無い。
だが、西安の経済状況は全く違う。人口流入により不動産価格は上昇を続け、マンション建設も衰えていない。不動産投資が続く限り、西安経済はこのまま成長を続けていくだろう。
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…11月の西安…
来期の損益計画は
今期に予定していた計画が、コロナ感染の影響で来期へ延期になった。結果、来期の経費が膨らみ、次年度の利益確保が大変難しくなった。その上、8月から続く原油高による円安があり、円建て取引では手取り額が減る。円安は、何物も容赦しない暴君のように思えてくる。
ここまで状況が悪化すると、反対にスッキリした損益計画を立てたいと思うのが私の性格。全力で取り組んだが、状況が悪すぎた。我慢と忍耐が浸み込んだ泥臭い損益計画にしかならない。成長するまでには何度も泥んこになるというが、来期の泥はタップリと用意されていることだろう。諦めず戦いを続ける
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…12月の西安…
西安の発掘品
12月上旬、中国への仏教伝来の歴史を証明する埋蔵品が、西安空港近くで発掘された。東漢(後漢)時代の墳墓からで、見つかったのは青銅製のガンダーラ仏像だ。西安に居る時は毎週のように発掘品のことを耳にしていたが、日本で聞くのは数年振りのこと。歴史ロマン溢れるニュースに胸が高鳴る。古き歴史と骨董品が眠る街、それが西安の魅力だ。
中国の骨董品を眺めていると、2千年、3千年の歴史ロマンが感じられて、夢のような時間を過ごすことができる。この発掘が、眠っていた私の骨董品収集の夢を目覚めさせてしまった。 |
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全市が封鎖
12月中旬、西安の雰囲気が怪しくなってきた。コロナ感染者ゼロが続いていたが、12日の朝に感染者1名の発表があった。追跡調査が進み、立ち寄った先では深夜まで検査が行われ、日を追うごとに感染者数が5名、10名と増えていった。
立ち寄り先は完全封鎖、次に観光地、博物館、食堂、商店が閉鎖、感染者が出た住宅団地ではフェンスが設置され、完全隔離されていった。19日には各地から支援部隊が西安入りして、昨年私が経験した対策レベルを超えた。ついに、23日午前0時に全市の封鎖が始まった。
当社の対応はというと、騒ぎになる前に準備を整え、17日からテレワーク体制に入っている。これは、総経理の適切な判断によるものだ。
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最後のエンターキー
試練が続いた一年も、あと数日で終わろうとしている。当期の最終損益はどうなるか、運命の時が迫った。決算処理に取り掛かる。賞与引当金、未払給料、減価償却費、資産滅却、売掛金を最終確認、慎重にパソコンに入力していく。作業は進み、残るはエンターキーを一回押すだけになった。だが、心の準備がまだできていない。ここは、タバコいっぷくだ。
今年一年の悲しみや苦しみ、驚きや悔しさが次々と頭の中を巡る。生産性向上、待遇改善、経費削減に精一杯取り組んできた。9月からの円安には、毎日換金レートを確認しながら世界経済や日本経済の動きを予測して、ベストなタイミングで人民元に換金した。ここまで頑張ったのだから、神様はきっとご褒美をくれるはず。そう思うと、気持ちも落ち着いてきた。
席に戻り、最後のキーを押す。どうか? 最終数値が黒色で表示された。桁数は少ないが、間違いなく利益金だ。この瞬間に鎖につながれていた私の心は解き放たれた。
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2021年の終わりに
年初めの頃は、西安へ行けないことで苛立っていた。気持ちを鎮めるために思い付いたのが庭の手入れだ。他にやることも無く、何よりも新型コロナウイルス感染予防になる。
作業を始める。晴れた日の朝は暗いうちから鋏とノコを手に剪定作業を。雨上がりの朝はバケツとクワに持ち替えて雑草取りを。休日は日の出から日没まで、植物たちの健康状態はどうか、害虫被害にあっていないかと気を配りながら、剪定、芽摘み、施肥、殺虫剤散布の作業を続けた。本格的な春を迎えた頃には、庭木はスッキリした姿になり、花木や草花は次々と花を咲かせ、実がなる木には鳥たちが集まってきた。
心の安らぎを得たことで、庭に対する情熱が燃え上がった。枯山水の庭を、華やかで近代的な庭に改造したいと考えた。専門書を数冊購入、これらを参考に庭の改造に取り掛かる。
まずは、数年前に仮植えしておいた花木たちを、それぞれに相応しい場所に植込む。次に、庭で育った日本原産の草花を株分けして適所に植える。この作業が終わると一年中花が見たくなり、洋風の草花や球根を多量に購入した。
華やかになったが、夏が近くなると雨や暑さに弱いとか、雰囲気に合わないといった問題が発生。勉強不足を痛感、やぶ蚊が襲ってくる期間は植物学習することにした。
学習中に気付いたことがある。一度植えると長く付き合って行きたい、成長していく姿を見続けたいという気持ちが強いということ。つまり、草花よりも庭木の方が好みに合っていることになる。そこで、40年以上付き合ってきた庭木を種木に、挿し木で花数を増やそうと考えた。既に環境に馴染んでいるし、何よりも経済的問題が発生しないのが良い。選んだ木は、パッと咲いてサッと散る男の花・椿だ。8月に元気な新芽を選んで挿し木した。また、9月には椿の兄弟分である山茶花の苗木も購入した。
今年一年を振り返れば、余暇のほとんどは植物と過ごしてきた。植物が私の心を癒し、花は喜び与えてくれた。感謝の気持ちでいっぱいだ。
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