2021年の元旦に

 

 2021年の元旦に願うことは唯一つ、新型コロナウイルス感染拡大が治まり、西安へ行けるようになること。これまで、年に10回は西安へ出張してきた。

 

 しかし、昨年は1回だけ。総経理の頑張りで仕事はできているが、西安の美味しい料理を楽しむことができない。心地良い食生活が過ごせる西安へ早く戻りたい。この寂しさを癒すため、休止を決めていた西安開設記を続けることにした。 

 

 

 

 

 

 

 

 

  …1月の西安…

 

 今年の予算計画は 

 

 今年の予算計画は、会社開設時に匹敵するくらい難しい。昨年予定していた異動や出張、それに行事が今年に繰り越され、今年の状況が見えないことが難しくしている。航空運賃は3倍にも跳ね上がり、西安へは成田発の便しか運航されておらず、日本国内の交通費、宿泊費、PCR検査費、それに西安へ戻ってからの隔離ホテル代までが旅費に加算される。

 

 今年の異動予定は7名、短期出張も5回予定されており、気が遠くなるほどの経費増になる。費用削減に取り組まなければならないが、これ以上何を削れというのか。それに、円安・元高までが予測され、間違いなく苦しい・苦しい1年になる。

 

 だが、今はいい方向に向かうと思うしかなく、勇気を持って取り組んでいく。努力すれば必ず陽が差してくるはず。もしかすると、ご褒美が待っているかもしれない。そんな夢を見ながらやっていく。

 

 

 

 

 

 

 


 為替変動

 

 為替変動は会社開設時から続く悩ましい問題だ。悩ましく思うのは自力で対処できないから。本社から送られてくる日本円を毎月人民元に換金しているが、為替レートの変動により予測よりも多かったり少なかったりする。

 

 計画時には世界・中国・日本の経済を分析して、当該年度の換金レートを自分で予測している。まるで賭け事でもやっているような気分だ。判断が正しからんことをいつも祈ってばかりいる。

 

 2019年、2020年の実績では、円高・元安により計画比で売上額が2019年は5.2%増、2020年は7.9%増になった。望外の喜びだが、それは一時だけのこと。年度末になると、本社が一網打尽に増額分を捕っていく。この苛立ちを和らげる知恵はないものか。





 

 

 

 

 

 

 

 

 …2月の西安…

 

 春節休暇は日本でテレワーク

 


 西安の春節休暇は2月11日から17日までの7日間。日本の感染拡大第三波はピークを越えたが、高齢者の重症感染者が急増している。年寄りは自粛が一番、春節休暇中はテレワークしようと考えた。手帳を見ると、小さな要件だが既に予定が入っていて、2日間だけのテレワークになった。

 

 本社では昨年春からテレワークを始めたが、最近では減少傾向にある。訊ねると、仕事の効率が悪いからだと言う。今はコロナゼロを目指す時、高齢者が率先してテレワークしなければ。

 

 1日目、炬燵に入って早朝から始める。緊張感の欠如だろうか、睡魔との戦いになった。特に、昼食後は自然と目が閉じてくる。この日の作業量は目標未達に終わった。2日目、前日の反省から炬燵の温度を低くして作業を始めたが、暫くするとくしゃみが出て鼻水が止まらなくなった。葛根湯で体温上昇を試みるが回復の兆しがなく、頭痛までしてきた。これ以上の悪化は避けなければならず、入浴を中止して早く寝た。

 

 テレワークには通勤時間がなく、1日につき2時間は多く仕事ができると思っていた。しかし、会社で仕事するほどの成果はなかった。仕事にリズム感がなく、調子は今一つ。

 

 昨年2月に西安で2週間、帰国してから2週間の隔離を経験、テレワークには自信を持っていた。だが、今回の挑戦は明らかに失敗。世間ではテレワークが流行っているが、高齢者には不向きではなかろうか。しかし、このまま終わってしまうのも悔しい。我が商魂に火をつける時が来たようだ。






 

 気軽に約束を   

 

 普段の会話の中で、西安の人は気楽に約束事を決める。守ってもらえれば問題ないが、約束したことを忘れてしまう人がいるから困る。

 

 西安へ通い始めた頃の話で、春節休暇の間で一緒に食事しましょうと約束したことがある。連絡を待っていたが音沙汰なく、休暇中も待ち続けたが何もなく、ついには休暇が終わってしまう悲劇を経験した。後になってそれとなく本人に訊ねてみたが、全く記憶にない様子だった。

 

 その場の雰囲気と調子で、西安の人は軽い気持ちで約束する人が多い。日本のように、約束が守れないと大いなる恥という考え方はない。それ以来会話の中での約束は、ただの挨拶と思うことにしている。




 

 




 

 
 …3月の西安…

 

 日本語学習  

 

 

 大学の日本語学科の学生に講演したことがある。講演後の雑談の中で、男子学生がこんな話をしていた。「英語よりも日本語の方が勉強するのに楽そうだから日本語を選択したが、これが大きな間違いだった。日本語は、勉強すればするほど難しくなる。」中国人にとって、日本語は同じ漢字を使うので楽に思えるのだろう。敬称・敬語の使い方を学ぶあたりから、日本語が難しく感じられるようになるようだ。

 

 2007年の操業開始から、新入社員には1年間の日本語学習時間を設けている。会社でも学習するが、毎日の宿題と金曜日には大量の宿題を準備して、帰宅後も学習させている。翌朝にはテストを実施、怠けることは絶対に許されない環境を整備している。これはパワハラではなく、本人のためにと十分に考えてやっていることだ。

 

 昨年8月に入社した社員の日本語能力に大きな差が出てきた。一人飛びぬけて上達した社員がいる。学習方法について訊ねてみると、毎日日本のアニメを1時間見て、何度も反復練習しているそうだ。イントネーションが素晴らしく、中国訛りも感じない。我社の日本語教育にアニメ学習を取り込むべきかもしれない。

 

 一人でも優秀な社員が現れると、他の連中や先輩たちは何を勉強していたのかと怒鳴りたくなる。もっとレベルを高くして、より厳しい学習へ発展させていかなければならない。

 


 

 

 




 

 


 プロフェッショナルな人材 
 

 

 西安は、プロフェッショナルな人材が育たないところ。上司は部下に命令するだけ、部下は俺には俺の考え方があり上司の話など聞くものか。また、上司にとって部下は自分の地位を脅かす存在なので教育なんかするものか。結果、部下は上司に対する親しみや優しさを感じることなく、こんな所で働けるかと言って退職していく。西安の退職理由の大半は人間関係によるものだ。

 

 離職率が高く、1ヶ所に長期間勤める人も少なく、異業種へ転職する人まで多い。このような環境で、プロフェッショナルと呼べる人材が育つわけがない。専門知識や経験に乏しい人間が最前線に立つことになり、客の相談相手にはなれない。客は自ら調査・研究して知識を習得しおかなければ、自分を守ることができない。




 

 

 

 

 




 

 …4月の西安…

 

 やっと西安へ帰任 

 

 昨年の話になるが、5月の連休に帰国して結婚式を挙げる予定の本社転属社員がいる。新型コロナウイルス感染拡大の影響で西安へは戻れず、式はお預けになった。何とか早く帰国させてやりたい。

 

 8月に入り航空便の運航状況を調べてみると、週に1便だけ毎週火曜日に成田空港から西安へ飛んでいる。中国大使館からの知らせには、「搭乗する際には指定病院のPCR検査陰性証明書が必要、帰国後は2週間のホテル隔離と2週間の自宅隔離。」などが記載されていた。厳しい状況ではあるが、帰国することはできる。

 

 そこで、1月5日成田発の航空券、前日の岡山市民病院でのPCR検査、IgM抗体検査、成田の宿泊を手配した。だが、仕事は気まぐれなもの、12月になって帰国にストップがかかった。予約は全てキャンセル、4月上旬の帰国になった。

 

 年が明けてから東方航空岡山事務所へ幾度も電話したが、フライトスケジュールが決まらない。春節休暇に入ってやっと航空券の予約受付が始まり、4月6日の航空券を手配した。

 

 4月4日成田空港へ移動、翌日にPCR検査を受け、6日の午後日本を発った。西安到着は20時、その後の手続きや検査に時間がかかり、隔離ホテルに着いたのは朝4時になっていたとの報告がある。とりあえず1日は休養を与え、翌日からはパソコンを届けるからテレワークすることを指示した。


     

 

 

 

 

 

 

 

 

  本音と建前

 

  西安には本音と建前を使い分けて話す文化はなく、本音を話すので相手が言いたいことは明確に分かる。日本のように、本音を言えば相手を傷つけたり怒らせたりする心配がある時は建前で話すといった複雑な話し方はしない。西安の会話に不安はないが、日本で建前の話をされると、言葉の裏に隠された本音を読み取らなければならず、曖昧な理解になってしまう。

 

 西安人から、日本人は何故建前の話し方をするのかを訊ねられたことがある。日本は狭い国土の中に人が集まって生活している。「和」を尊ぶ精神から、言い争いを避けるために建前で話すのだと説明する。不思議そうな表情をしていた。

 

 社員が日本へ赴任する際に本音と建前についての話はするが、理解できるようになれとは言わない。外国人に強いるのは酷だと思う。西安のように口論を恐れず本音で話すのが良いのか、建前で穏やかに話す日本の方が良いのか、悩ましいところだ。

 


 

 

 




 

 …5月の西安…

 

 友達が多いのは

 

 西安では、誰々も私の友達だという話をよく耳にする。友達の数が多いことを自慢したがる。理由は、友達が多いほど実力がある人に見てもらえるからだ。私が思う友達とは一生の内に一人か二人で、西安人が言う友達とは意味が違っているように思える。

 

 西安人が友達を増やすのに熱心な理由を調べてみた。友達とは、自分の利益につながる人とピッタリ重なる。中国は人脈の国、法律や規則よりも人脈が、結果を左右する国である。損得で友人を選ぶのは好きになれないが、中国では仕方がないことかもしれない。

 

 この話とは違うが、西安人が好きなのは、初めて会った時は接しにくいが、二度目になると無二の親友のように接してくれるところだ。目立たない性格の私にとってはとてもありがたいこと。親しき中にも礼儀ありといった堅苦しい日本とは全く違う世界がある。

 

 

 


 

 

 

 西安の老人介護事業

 

 西安へ通い始めた頃、老人介護事業をやりたいので協力してくれないかという依頼を受けた。聞くと、高級有料老人ホーム開設といった目論見だ。日本のメーカーと福祉法人に話してみたが、どちらも尻込みした回答だった。

 

 中国の状況は一人っ子政策の後遺症ともいえる高齢化社会、親の世話ができない家庭が増えている。最近、日本人を巻き込んで介護事業を始める人が増えて、その様子をNHKが放映した。自信満々で日本の細やかな介護技術を指導しようと中国へ乗り込んだが、文化や考え方の違いで悩んでいる日本人の様子が主な内容だった。

 

 中国では、老人介護事業は儲かる商売と考えられていて、日本の介護サービスを提供したのでは人件費が掛かり過ぎて儲からない。五倍手数が掛かるそうだ。だからと言って、利用料金を五倍にするわけにもいかず、悩んでいる中国人経営者の様子も放映されていた。いずれ日本人介護士は引き上げていくことになるだろう。介護保険制度が無い中国で、日本の介護サービスを提供するのは無理だ。

 

 番組の中で驚いたのは、中国の介護施設の規模である。建物は高層ビル、収容人員も700人から800人と多い。これ程大規模な施設を日本では見たことがない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …6月の西安…

 

 子供の教育 

 

 

 我社でも、子供を持つ社員の住居移転が始まった。子供の教育を考えてのことで、有名校がある学区への移転を目指す。西安は学歴社会、親たちの苦労は保育園入園から始まる。役所や有名企業へ就職させるには有名大学へ、有名大学へ入学させるには有名高校へといった理屈だ。子供にはのびのびと楽しい日々を過ごさせてやりたいところだが、人生とは厳しい。

 

 有名校がある学区のマンション価格は高騰するばかりで、子供を持つ社員は高給を望むようになる。企業はより利益を出して社員に還元していかなればならず、責任は重くなるばかり。

 

 思うのだが、大学への進学率は高くなったが、卒業生の就職率は低いままだ。それに、企業では経験者は採用するが、未経験な新卒者採用は控える。結果、大学を卒業しても就職できずに田舎へ戻っていく学生も多い。但し、有名大学上位3校は別で、卒業生全員が就職できる。だから、親はこの3校を目指して子供に熱い情熱を注ぎ、教育投資を続けていく。

 

     

 

 

 

 

 

 

 

 

  復古

 

 中国人は見た目が華やかで美しい物を好み、日本人は渋い感じを好む。好みは対照的で、西安はカラフルで鮮やかな色彩、日本は落ち着いた色彩。中国人は見た目の美しさを重視、日本人は奥から感じられる趣や美を重んじるように思う。

 

 西安へ通い始めた頃に家具店で見ていた品は、白地に金で縁取られたヨーロッパ風の華やかなものが多く、カーテンなどは光物まで付いた派手なものが並んでいた。ところが、最近では華やかな家具は姿を消し、中国の伝統的デザインで木目を生かした家具が並ぶようになった。政府が、外国の真似などしないで、素晴らしい中国文化を取り戻そうと呼びかけている効果だと思う。

 

 その効果は観光にも現われ、古都西安を訪れる観光客が急増、今では中国No.1の観光地になった。西安市も観光開発に力を入れていて、華やかな唐時代の雰囲気を残しながら、中国伝統の美が感じられる魅力的な街にすることを目指している。骨董好きの私にとっては,表彰してあげたいほどだ。