…7月の西安…

 

 日本赴任の準備 

 

 2月中旬に帰国してから西安へ行けない日が続いていたが、日本政府に動きがあった。出入国管理事務所が、在留資格認定申請の受付を7月1日から再開したのだ。西安へ行ける日も近くなったかな。

 

 本社転属社員の赴任準備に取り掛かる。準備には4ヶ月半の期間が必要で、パスポートの取得に2週間、在留資格認定申請から認定証が届くまでに約3ヶ月、認定証を西安へ郵送して北京の日本大使館へビザ発給を申請、ビザ証が貼られたパスポートが戻ってくるまでに3週間。その間に航空券の手配や赴任研修を行うが、毎回出発日に間に合うかどうかハラハラしながらやっている。

 

 赴任日は11月20日を予定。逆算するとパスポート申請を7月に始めなければならない。総経理に連絡すると、受付窓口が新型コロナウイルス感染拡大の影響で閉鎖されたままだと言う。窓口再開の時期も分からない状況だ。

 

 航空機の運行も気になる。7月時点では、上海・岡山便は10月末まで運行予定がない。はたして中国と日本の間で運航を認める話し合いはつくのだろうか。日本の新型コロナウイルス感染は治まる様子がなく、転属社員が岡山へ来られるのはいつになるのだろう。  

 

 

 

 

 

 

 
  中国の企業支援

 

 日本政府の新型コロナウイルスに対する企業支援は、中国と比較すると全ての面で劣っているように思える。金額でもスピードでもだ。中国では、1月初旬に社員30名以下の小規模企業に対する支援から始まった。内容は、1月分から残疾人補償金の負担が免除された。障害者支援のための負担金で、税金のようなものだ。

 

 1月下旬に本格的な支援策が発表された。この発表は操業停止命令が出される前のことである。日本は後追いで支援策を出すが、中国では事前に通知された。内容は、企業が現在負担している養老年金(厚生年金)、失業保険及び労災保険の全額と医療保険(健康保険)の50%が、2月から6月まで免除されるというものだ。

 

 5月下旬になると追加の支援策が発表され、前記の社会保険の負担免除が、医療保険を除き6ヶ月間延長されて12月までになった。この支援で、赤字の当期損益予測が黒字に変わった。

 

 数日して、経営安定化支援金が10月に支給されるという通知があった。こちらは申請して支援金をいただくもので、ここまでの支援があると心にゆとりが出てくる。新しいことに挑戦してみようかという勇気まで湧いてきた。外資系企業にも、西安の観音様が愛の手を差し伸べて下さったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 


 …8月の西安…

 

 贅沢は敵か

 

 新入社員研修で、若い時は自分の人生に投資をしなさいと指導している。しかし、彼等からは、貯蓄に取り組んでいる姿しか見えてこない。特に、本社へ転属している間は金を貯めて、帰国したら結婚するためのマンションを買うが合言葉にまでなっている。彼らの衣食に対する節約は厳重で、贅沢な食事は敵と思っているらしい。

 

 高校時代に先生から聞いた話で、若い時は広く世間を知るために高級品を使いなさい、スーツはオーダー・メイドで、歌舞伎・オペラ・高級料理店にも行ってみなさいなど、良いものの良さを知ることが大切ですと教えられた。社会人になり、年上の方とお付き合いさせていただく機会が増え、そのときの経験が大いに役立った。どんな方と接しても、胸を張って話すことができる。高級を知ることは決して贅沢ではない。

 

 ある日、西安で頑張っている社員を慰労しようと高級ホテルのレストランに案内した。その時の社員の様子は、普段よくここで食事をしていると思われたいようで、喜んでいる様子が見えてこない。ナイフ&フォークの持ち方を見れば、洋食は初めてなのが分かる。それなのに、どうして見栄を張るのか。

 

 物の価値や良さを知っていれば素直に喜べるし、感謝の気持ちも湧いてくる。それが、自然と相手に伝わるものだ。貯蓄よりも、若い時こそ物の良さを知ための投資をすべきだと思う。





 

 

 

 

 

 

 

 新入社員研修の進め方 

 


 新型コロナウイルス感染拡大は夏前に治まり、8月の新入社員研修に参加できると思っていた。しかし、状況は悪化、西安へ行くこともできない。不参加の準備として、今年改訂した就業規則と賃金規定、それにこれまで私が研修で話してきた原稿一式を西安へ送った。総経理がプレッシャーを感じるのではと心配したが、その様子は全くない。2007年から一緒にやってきた実績から、自信を持っている。

 

 新入社員の新型コロナウイルス検査と研修中のマスク着用が気になって連絡したが、既に手配を済ませた後だった。頼もしく思えたが、役目を終えた私の姿を見た。

 

 8月21日から新入社員研修がスタート、朝から落ち着かない。昼の休憩時間を待って連絡してみると、総経理の明るく元気な声が聞こえてきた。任されると人は成長するものと言われるが、全くその通りだ。これからは、見守っていくことが私の仕事になる。

 

 8月31日の最終日、我社の雰囲気に溶け込んだ新入社員たちの写真が送られてきた。彼等の目は輝いていた。






 

 

 

 

 

 

 …9月の西安…

 

 秋の募集活動  

 

  6月に春期募集のオンライン反省会を開いた。その時の問題点としては、ホームページのリニューアルがある。2010年に自社製作して以降毎年手は入れてきたが、10年が経過して古さが感じられるようになった。全面的に作り直すことにした。

 

 7月に製作責任者を決め、作業に取り掛かる。デザインを一新、掲載する写真やビデオ映像の選別作業を進める。今回の目標は、会社説明会に参加したのと同じ効果が出るところまでもっていくことだ。

 

 8月中旬、秋期募集のオンライン検討会を開く。日本の経済状況から新規採用の中止も考えたが、人数を減らしても続けるべきという考えに至った。自社製作したリニューアル版は8月下旬に完成、9月初旬に大学ネットに募集広告を掲載、秋期募集活動がスタートした。スカイプを使ってのオンライン面接を楽しみにしている。




 

 

 雨が多い月  

 

 

 西安では、9月が一年の内で一番雨が多い。日本では、歩いている人が傘をさしているかどうかを見て、傘を持って出るかどうかを判断する。しかし、西安で同じようにやると、とんでもないことになる。西安人は小雨程度では傘をささないのだ。

 

 理由について考えてみた。西安は乾燥地帯、雨は天からのありがたい恵みであり、濡れることなど気にしないのだと。西安から出土する骨董品を見ても、雨乞い祈願の用具が多く、私の収蔵品(写真)の中にも水神様がいる。

 

 一応の結論を得たが、念のために傘をささない理由について西安人に直接訊ねてみた。すると、「面倒なだけでしょう。」という答が返ってきた。西安人気質を考えれば、これも正解かもしれない。

 

 雨でこんな話を思い出した。会社開設時に、洒落た中国風焼物の長傘用傘立てを準備した。しかし、利用したのは私だけ。社員は全員折りたたみ傘で、手造りした大型傘立ての上に横並びに置いていた。西安ではどしゃぶりの雨は年に1,2回程度、折りたたみ傘で十分ではある。

 

 しかし、今年の雨はこれまでと違って西安北西の砂漠地帯で大雨、秦嶺山脈の南では大洪水が発生している。西安も7月中旬から雨の日がずっと続いていると聞く。雨を止める祈願はないのだろうか。私の水神様にお願いしてみる。



 

 

 


 …10月の西安…

 

 喫煙環境 
 

 

 喫煙者にとって、西安には恵まれた環境が整備されている。日本では撤去された舗道上の灰皿も10m間隔で設置されたままになっていて、いつでもどこでもタバコが吸える。  裏通りの食堂では、殆どの店の入口がオープン状態で全席喫煙自由。灰皿のサービスはないが、灰は床に落しても大丈夫、吸い殻は床にポイ捨てOKだ。

 

 五星ホテルとか有名レストランでは、さすがにテーブルではタバコが吸えなくなった。しかし、喫煙室や喫煙コーナーが必ず設置されている。昨年オープンした五星ホテルでは、レストランと部屋続きになったテラスに豪華なテーブルとソファが置かれ、優雅な気分でタバコが味わえる。これが気に入り、連日通った時期もあった。この様な喜びは、タバコ吸いでなければ理解できないだろう。タバコは不思議な楽しみだ。

 

 中国では、タバコは専売ではなく自由に製造できる。地方自治体が経営するタバコ会社まであるのには驚く。企業間競争は激しく、各社が独自性を出そうと知恵を絞っている。「我社のタバコを吸って、元気になろう。」と、不思議なセールストークで販売を伸ばしている会社がある。漢方薬入りで、特に男性に効果があるらしい。一度試してみたが、1箱20本入りで200元(日本円:3200円)とべらぼうな値段だった。

 

 入居している事務所ビルは全館禁煙で、玄関近くに灰皿が2基設置してある。1時間おきに通っているが、喫煙者のマナーが悪くタバコが美味しくない。火がついたままの吸殻を灰皿へポイ、暫くすると煙がモクモクと立ち上ってくる。その他、灰皿の小さな穴へゴミを無理矢理ねじ込んだり、唾をはいたりもする。マナーが守れない人間はタバコを吸うなと言いたい。タバコは、紳士だけに許された楽しみなのだ。




 

 

 

 

 

 日本式サービスが人気 

 

 日本のサービスと技術をもってすれば、西安でどんな商売をやっても成功すると西安の人は言う。その背景について考えてみた。

 

 西安のデパートに入ると「お前何を買いに来た、さっさと買へ。」、レストランでは「もっと高い料理を注文しろ。」と言われているような気がしてくるのは確かだ。西安には楽しめる店が極めて少ない。知人は、「日本で当たり前になっているサービスさえ提供できれば、西安中の人が押し寄せて来る。日本人にとっては、競争相手がいない環境で商売ができる。」とまで言う。

 

 総経理に「料金が高いのに、何故日本人の美容室へ行くの?」と訊ねてみた。返ってきた言葉は、「腹が立つことがなく、気分がいいから。」だった。その美容院は、現在予約するのが難しいほど繁盛しているそうだ。求めるものが、安いから気分良くに変わってきたように思える。

 

 別の知人は、「車を買いたいが、どこの店へ行ってもサービスや対応が悪く、買う気にならない。」とぼやいていた。しかし、次に会った時は「レクサスを買ったよ。」だ。決め手になったのは、雰囲気と対応の良さだ。詳しく聞いてみると、日本式接客マナーの社員教育が行き届いていたように思える。西安進出を目論む日本人にとっては、良い時期がやってきたのかもしれない。


     

 

 

 

 

 

 

  …11月の西安… 謝ったら負け

 

 好きになれない中国人の考え方がある。それは、謝ったら負けという考え方だ。絶対に負けを認めないのが中国人。自分の間違いが分かっていても、それを認めることはしない。攻められると、自分を正当化することばかり叫ぶ。

 

 これと比べると、日本人は謝るばかりしているように思えてくる。西安では、言いたいことをはっきりと大声で叫ぶべきで、「沈黙は金なり。」と黙っていては、決して良いことにならない。自分自身にそう言い聞かせながらこれまでやってきた。

 

 ニュースを見ていると、中国人とアメリカ人の考え方はよく似ているように思う。どちらも、絶対に負けたくない気持ちが強く、あなたが間違っていると叫び合うばかりしている。この二人がいくら話し合っても、問題が解決することはないだろう。似た者同士というのも実に厄介なものだ。お互いに相手の立場に立って物事が考えられるようになれば、問題が起きることもないだろうに。

 


 

 

 

 

 

 

 …4月の西安…

 

 老人たちの暮らし

 

 西安で働く人たちが定年退職する時期は日本よりも早く、男性が55歳、女性は50歳が一般的だ。法律上で男性は60歳、女性は55歳と決められているが、実際にはそれよりも早い時期に退職する。退職した人たちは、どんな暮らしをしているのだろう。

 

 西安で私の年齢になって働いている人に出会ったことがない。西安では、老人の考え方ややり方は古くて価値がないと考えられている。日本では経験に価値があると考え、老人たちにも活躍の場があるが、西安には無いのだ。

 

 日本では自分の子供は自分たち夫婦で育てるのが基本になっている。しかし、西安ではお爺ちゃんお婆ちゃんの役目だ。昼時になると、小学校の門前に大勢の老人たちが集まる。孫を出迎えるためだ。家に連れて帰り、昼食と昼寝をさせてから学校へ送る。朝夕にも学校の送り迎えがある。

 

 その他、老人たちが家事を担っている。スーパーマーケットに来ている客も老人が多く、それも男性の姿が目立つ。聞く話によると、料理を担当するのも男性が多いそうだ。こればかりは、日本に生まれて良かったと思う。祖父から、「男の子は、台所に入るものではない。」と強く叱られて育った。そのためか料理が苦手で、「めし」と叫ぶだけがいいと思う。

 

 老人の楽しみの一つに、朝夕の公園での運動や踊りがある。テレビ出演して踊りを披露するセミプロチームも多く、本格的な活動をしている。太極拳が有名だが、最近ではインドや新疆ウイグルの踊りも流行っていて、実に楽しそうだ。

 

 

 

 

 

 …12月の西安…

 

 見栄っ張り

 

西安で生活していると、日常的に中国人の見栄っ張りなところが見えてくる。俺は金持ちだと思わせたいために、最大限の努力をする。大きくて高価な車に乗ったり、所有するマンションの部屋数を話したり、数人で食事した際に俺が払うなどと、取り上げればきりがない。生きていくために見栄は本当に必要なのだろうか。

 

 学生時代に和歌山の友人宅を訪ねた時の話で、彼の母親が高価なダイヤモンドの指輪をはめていたが、何故か指輪が横を向いていた。訊ねると、お会いするお客様によっては、見えないよう内側に回すこともありますよと話された。似たような話で、社会人1年生の時に上司から、お客様より高価な品を身に付けてはいけませんという指導を受けた。

 

 日本では控えめが好まれ、見栄は邪魔なものとされている。「能ある鷹は爪を隠す」という諺があり、能力まで控えめが良いとされている。大先輩からは、「見栄は金にならない。」と、強烈な営業指導を受けたこともある。中国の人達には理解できないだろう。

 

 

 


 

 

 今年は中止や延期ばかり

 

 

 新型コロナウイルス感染拡大で、今年ほど計画していたことが中止や延期になった年はない。本社への出張や転属、西安への帰任や帰国休暇、管理者研修や入社前日本語研修、新入社員歓迎会や忘年会まで消えてしまった。

 

 だからといって悲しんでばかりいるわけではない。学ぶことが多い一年でもあった。これまで当たり前と考えて支出してきた経費が、改めて考えてみるとそれ程の効果がなかったことが判明した。

 

 常に経費節約を叫んできたが、本当に必要な経費は何かということが明確になった。次年度予算を検討するに際し、全てのことについて一旦白紙に戻し、ゼロから積み上げていくことにしようと思っている。

 

     

 

 

 

 

 

 

 

  2020年の終わりに 

 

 2020年は、2月中旬からずっと岡山暮らし、西安へ行けない辛い、辛い一年だった。それでも、自宅で過ごす時間が多かったことで、庭と骨董品が随分と綺麗になった。

 

 そう考えると、悪いことばかりではなかったようにも思えてくる。気持ちの持ち方や考え方次第で、どんな状況であっても喜びや楽しみを見つけることができる。

 

 新しい年2021年はどんな年になるのだろう。感染が治まり早く西安へ戻りたいが、状況は非常に厳しく西安開設記がネタ切れ、暫く休止とさせていただきます。