玉収集のその後-7
若い店主の骨董店から、「珍しい品があるので見に来ないか。」と誘いがあった。彼がそこまで言うからには、きっと私が自制心を失ってしまう品であろう。危険は承知で、彼の誘いに乗ってみることにした。
展示が始まる。以前からこれだけはどうしても欲しいと思っていた「馬車」が登場してきた。強烈な先制パンチをくらった。馬車の製作期間は短く数も少ない。喉から手が出るほど欲しい品だ。このチャンスを逃がしてなるものかという「欲」と預金残高が少なくなっているという「理」が、頭の中で戦いを始めた。結論が出ない。値段を聞いてからにしよう。
提示された額は予想外に高い。それに、「絶対に値引き出来ない。」とまで言われた。どうしよう?諦めるしかないのか。沈黙作戦を試みることにした。
沈黙の後、店主が動いてきた。「農夫をプレゼントする。」だ。その程度のサービスでは満足できないぞ。沈黙を続ける。それにしても、彼は何時農夫を気に入っていることを察知したのだろう。恐ろしいほどの感性の持ち主だ。
少し時間を置いてから次の動きがあった。「西安スタッフにプレゼントがある。」だ。防備が弱
い側面から、実に巧妙な手口で攻めてきたものだ。西安スタッフは、美麗な白玉腕輪を付けて嬉しそうにしている。彼は大した戦略家でもあった。
ここで、提示価格−(農夫+腕輪)=の計算をしてみた。納得できる額には至ってない。どうしよう?しかし、西安スタッフの喜び方を観ていると、もはやこれまでとも思える。ここで戦いに
終止符をうち、店主の提案を受け入れることにした。
店主は上機嫌で、「少し待っていて。」と言い残してどこかへ出掛けていった。暫くして、大き
な箱を提げて戻って来た。茶葉の詰め合わせセットが土産だそうだ。値引きの方が嬉しいのだが、今となってはどうすることもできない。
悔いが残る交渉ではあったが、「農夫」のプレゼントには満足している。長い顔と素朴な立ち姿が気に入っていた。この時代は龍や鳥で周りを豪華に飾った作品が多く、農夫のようなシンプルなデザインの品は珍しい。また、農民生活をテーマにした作品も少ない。
玉は権威の象徴とされていた時代に、何故農夫のような作品が彫られたのだろう?また、依頼人はどんな人物だったのか?多くの謎がある。
思い出してみると、玉収集を始めた頃の収集品には農夫のような素朴な感じのものが多くある。その中では、鳥の冠を被った楽隊と鳥を背負った動物たちがお気に入りである。鳥たちが、「お側に置いていただいて幸福です。」と語りかけているように感じられるからだ。
また、可愛い動物たちも気に入っている。何の動物か気にしないで購入したが、磨いているうちに頭から突き出ているのは「角」ではないのか、背中にある2つの膨らみは「こぶ」かもしれないと思うようになった。
調査してみると、紀元前500年頃に描かれた絵の中に、同じ姿をした動物たちを見つけた。説明には、意外にも「犀」・「駱駝」と書かれてあった。実物とは全く似ていない。それなのに、可愛いと感じるのは何故だろうか?研究してみることにした。
玉収集のその後-8へ続く。
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